『フクマスベース見学』設計:吉村靖孝建築設計事務所

吉村靖孝建築設計事務所が設計し、昨年(2016年)竣工した千葉県市原市の幼稚園「フクマスベース」を見学してきた。昨年の建築雑誌でも多数掲載されており、GA Japan 140号や新建築5月号に詳細図面なども掲載されている。

正面からの外観は、大きなテントそのものだ。実は、この敷地には、もともと既存の倉庫があり、当初はそれを利用したリノベーションの計画だった。紆余曲折あり、新築になったが、外形はそのまま残したそうだ。

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既製品の安価なテントにプリントされているロゴは、吉村氏によるデザイン。

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内部は、テントに囲まれるように木造の1枚壁が曲がりくねりながら空間を緩やかに作っている。この1枚壁は、表面を白、裏面を木構造現しとし、明確なルールに基づいて構成されている。手前に見える大きな部材は後ほど説明する。

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白く仕上げられた表面

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木現しの裏面

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テント膜と1枚壁の間の空間にある職員室

この1枚壁の外側をテントが包んでいるため、テントと壁の間に多様な隙間が生まれている。テントと壁の構造は、基礎まで完全に分断されており、混構造ではない(それにより、コストや工期でも有利に働いている)。構造の違いから生まれる異素材が共演する複雑性も兼ね備える建築だ。

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2階に上がるとその構成は、より明確になる。基本的に建物全体は、テント幕から入る間接光で明るい。断熱は一部の個室しかないが、全体を幼児が走り回る雨の当たらない外部と位置づけているため、問題ないだろう。

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1階の写真でも見えていたこの大きな部材は、1枚壁を支える火打梁の役目を果たしている。従来の火打梁に見えないこの部材が、空間の中で主張しながらも「1枚壁」というコンセプトをより強固にしている。

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この火打梁は、それぞれ設置角度が異なるため、STROOGという金物会社と共同開発した部材が使われている。1枚壁の構造と切り離されたような見え方が新鮮で、一見すると、火打ちの役目を果たしているように見えない。これも明確なルール(壁は壁であるべき)からくるものであろう。

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1枚壁は、テントの背面から飛び出しいている。ここでも表面の白と裏面の木のルールが徹底されており、外部の木材は透明なFRP防水で処理されている。

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– 合板の木目が透けて見える外部の裏面

今回の見学で最も驚いたのは、建築や空間を定義するルールの徹底振りだ。1枚壁が入り組む中で表と裏の仕上げや色を明確に分離しているところまでは理解できるが、それを外部まで徹底しているのだ。そこまでする必要があるのか不思議に思うかもしれないが、そこに建ち現れている空間を体験すると、明確なルールが複雑な空間をシンプルに理解させてくれることに気づく。これは、幼稚園という用途や子供たちの活動において重要なことかもしれない。

「新設でありながらも定数としてとして扱われたテント」と「内部で展開される変数としての1枚壁」による「間」の空間は、本プロジェクトにおいて非常に重要な部分であると感じた。リノベーションプロジェクトにおいて、動かせない既存躯体と新設部材の関係性から空間を生み出すように、このプロジェクトは、新築でありながら設計者の設定によってリノベーション的に振舞い、見事に「間」が設計されている。子供たちの生活により、出来上がった「間」の空間がどのように彩られるのか楽しみだ。

『フクマスベース』
建築設計:吉村靖孝建築設計事務所
構造設計(木) 満田衛資構造計画研究所
構造設計(鉄骨) 長谷川総合企画
監修:日比野設計+幼児の城
施工 ひらい建設
膜構造施工 サンワ企業


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medium 1-1Architects  神谷勇机
1-1 Architects(イチノイチ アーキテクツ)は、神谷勇机と石川翔一による愛知県刈谷市の一級建築士事務所です。東海地区を中心に国内外を問わず、住宅設計や店舗設計、 リノベーションなど幅広いデザイン業務を行っております。
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