『堀部安嗣展 建築の居場所』@TOTOギャラリー・間

TOTOギャラリー・間で1月20日から3月19日まで「堀部安嗣展 建築の居場所」が開催されている。建築家として26歳で独立した堀部氏がこれまでの20余年にわたり設計してきた80を越える作品の中から模型や動画、図面などが豊富に展示されている。

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3F展示会場に入るとまず展示台と一体化したデスクと様々なイスが目に付く。そこに座ることで、少し高くなっている展示台に視線が遮られ、自分の居場所ができる。それにより、ゆったりと落ち着いた状態でそこにある書籍や図面が閲覧できる仕掛けだ。

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展示台の上には、アガチス材で作られた模型が1/100という同じスケールで並び、統一感を出しながらも、それぞれの個性を醸し出している。イスに座りながら図面に没頭し、ふと目をあげると目の前に模型がアイレベルで建ちあがっている。自分だけの空間で2次元と3次元を言ったり来たりする感覚は、設計者にとって心地が良い。

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周囲の壁面には、代表作ごとにまとめられたエスキス図面や模型が並び、堀部氏直筆と思われる思考の跡が垣間見れる。どの段階で何を考え、どういったところに注目しているのか氏の思想を感じることができる。

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あまり模型は作らないようだが、数少ないであろう白模型にも、エスキスや修正の跡が見られる。糊をはがした跡や、無造作にあけられた開口を見ると何度も思考した痕跡が現れている。この模型だけでも建築に対する真摯な姿勢や思考に圧倒され、迫力があった。

その他にも仕上げ材のモックアップや最新プロジェクトである宿泊型の小型客船「せとうちクルーズ船 guntû(ガンツウ)」の模型、施主であるカフェのオーナーが展示のために作ったチョコレートの模型など見所満載だ。

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–  素材のモックアップ

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– イヴェール・ボスケというお菓子屋さんの施主が展示のために製作したチョコレート模型

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–  最新プロジェクトである「せとうちクルーズ船 guntû(ガンツウ)」

そして、3階の最も奥には、実際の堀部氏の事務所の様子が再現されている。

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なんと、このテーブルやイスは実際の事務所のものだそうだ。光や影を大事に扱う堀部氏なので、展示会場でこの場所を選んだ理由や、レースカーテン越しの光などの再現性にはこだわったのだろうと考察できる。また、氏の趣味であるドラムセットも見えるが、今回の展示会場中にそれぞれ散らばっている。それは、しばしば建築を音楽に例える氏の遊び心のようだ。

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この製図板も現在堀部氏が実際に使用しているものだ。現在でもCADを使用せずに手書きにこだわる氏の製作現場を感じることのできるこの場所は、必見だろう。手書きや陰影のなまめかしさから氏の心地よい空間が生まれているように感じる。

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ギャラリー間といえば、この屋外展示場だが、堀部氏は竹林寺納骨堂で使われている実物のベンチを置いている。どこからか聞こえてくる氏の作品で録音された実際の音を東京の中心で聞くという体験型の展示にもなっていて、考えさせられることも多い。

さらにここから4階に上がっていくと、30分の短編ドキュメンタリー映画「堀部安嗣 建築の鼓動」がループで上映されている。堀部氏の14の作品を半年かけて撮影したそうで、施主インタビューや実際の作品の陰影や音などを余すところなく体感することができるので、これだけでも見る価値はあるだろう。

今回の展示を体験して、堀部氏は自身の作品を展示しているというより空間を展示/提供しているように感じた。こんなに居心地よく、滞在できた展示は過去にあっただろうか。それは、氏の設計する建築からも感じることのできる真剣さや優しさからくるものだろう。表層ではない極めて「建築」的な展示であった。

 

『堀部安嗣展 建築の居場所』
会期:2017年1月20日(金)~3月19日(日)
開館時間:11:00~18:00
休館日:月曜・祝日
会場:TOTOギャラリー・間 [港区南青山1-24-3] 入場:無料

 


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medium 1-1Architects  神谷勇机
1-1 Architects(イチノイチ アーキテクツ)は、神谷勇机と石川翔一による愛知県刈谷市の一級建築士事務所です。東海地区を中心に国内外を問わず、住宅設計や店舗設計、 リノベーションなど幅広いデザイン業務を行っております。
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